最近電車に乗っていたタイミングで、何故かふと前職場で上司に言われたことを思い出した。

多分あれは入社して三年目くらい、自分は25,6歳で任されていた営業エリアを回るのにも慣れてきていた頃だと思う。

ある日ふとしたタイミングで上司に声をかけられた。

 

「堤君さ、音楽はまだ続けてるんだっけ?」

 

普段あまり接することのなかった上司が、自分や音楽に対し興味を持ってくれたのかと思い、

 

「はい、まだ続けています」

 

と、少し嬉しくなって答えたことを覚えている。

それに対し上司は、

 

「いつまで音楽なんて続けているのか」

「どうせお金になんかならないのだから、早めに辞めた方がいいんじゃないか」

「いつか仕事や家族に専念して、一生懸命やらなきゃいけなくなる」

 

というような旨のことを僕に言ってきた。

最初は何を言っているのか理解できず、「はあ」とだけ受け流していたが段々と悲しい気持ちになった。

自分が「音楽を辞めろ」と言われたことではない。

彼はこれまで音楽や映画を見て感動したことがなく、この先の人生でもきっと感動することがないのかなと思ってしまったからだ。

週末はスーパー銭湯で一日寝るの趣味だという、今後もずっとそれが続くであろう彩りのない彼の人生を思い気の毒に感じた。

 

そもそも「仕事」と「音楽」は両立不可能なものなのだろうか。

疑問である。

彼は僕のことを「音楽にうつつを抜かしている人間」と見ていたようだが、正直当時から仕事は嫌いじゃなかった。

営業マン1人1人に割り当てられる予算は落としたことがなかったし、最終的には当初与えられていた予算を三年で倍にすることに成功した。

新規販路の拡充も部で一番だったし、仕事はそれなりにこなせていたと思う。

確かに反発の受けやすい性格であった部分は自覚するし、余計な摩擦を起こした部分は若気の至りとして反省はするにしても、仕事という点においては、音楽活動をしていようともなんら支障はきたしていなかった(はずだ)。

週末の予定があると仕事も頑張れるし、音楽に関する諸々から仕事のアイディアやノウハウを得ることも多い。

これだけが理由ではなかったが、現在は職を変えたが音楽と仕事は両立している。

 

上司にはとやかく言われていたが、正直傍目から見ていると趣味や打ち込むものがない人の方が仕事はできなかった印象がある。

知的好奇心が薄く積極性がない。

コミュニティを職場以外に持たないため情報が偏り、世界が狭く閉じていく。

 

「バンド活動すごいですね(でも僕にはできないです)」

「なんか楽しそうですね(でも僕には関係のない遠い世界の話です)」

 

このメンタリティは仕事にも影響をする。

だから一事が万事この調子で、成長も進歩もなくダラダラと会社に居座る人が多かった。

音楽にも一生懸命になれない人は仕事にも一生懸命になんかなれないし、仕事すら一生懸命にできない人は何をやったてうまくいくはずがないのだ。

「音楽を一生懸命やる=仕事をてきとうにやる」ではないし、その逆でもない。

「どちらも好きなのだから、どちらも一生懸命やる」もちろん全員が全員こうしろと言っているわけではなく、選択肢のひとつとしてもっと認知されてもいいと思う。

 

少し前に「半農半X」という言葉が流行ったように、バンドマンもこれからは「半音楽半X」の時代なんじゃないだろうか。

音楽不況が叫ばれる昨今、音楽だけで食っていくのは至難の業だ。(ニッチなシーンなら尚更)

そこで3,400万はベーシックに会社員として収入を得ながら、1,200万の+をバンドで目指す。

これなら「売れない」と解散する必要もないし、長いスパンで自分のやりたい音楽で戦うことができる。

せっかく音楽という死ぬまで遊べるおもちゃが手に入ったのだから、就職なんかのために全部放り投げるのはもったいないと思うんだ。

40歳になった時に100万人を泣かす名曲ができる可能性だってあるわけだし、仕事も音楽もやればいい。

そう思ってたからこそ、このイベントを絶対に京都でやりたいと思った。